吉田輝星と根尾昂

史上最も暑くなった平成最後の夏、鮮烈な印象を残した2人の高校生について、書き記しておきたい。

吉田輝星と根尾昂。

近い将来に松坂大輔や坂本勇人を凌ぐ野球選手として大成するだろう。しかし、それ以上に特筆すべきは、対極にある環境で育ち、全く異なるキャリアを歩んできたことで培われた、2人の独特な魅力にあると思っている。

吉田輝星と根尾昂
(画像引用:テレビ朝日)

吉田輝星投手は、この夏の甲子園で主役に踊り出るまで、中学・高校を通じて一度も全国大会に出場した経験がない。それこそが、U 18日本代表候補に選ばれていたものの、大会前にメディアの注目を浴びる存在ではなかった理由であり、近年野球界で台頭してきたとは言え全国的に無名に近い、八戸学院大学への進学が内定していた理由でもあると思う。

秋田県予選の初戦で、金足農業は秋田北鷹という実績の乏しい公立高に2−0で苦戦しているが、もしも甲子園の舞台を踏んでいなかったらどうなっていたかを想像すると、本人はもちろん、野球界や秋田県にとっても、貴重なチャンスを逃さないでくれて本当に良かったと思う。

吉田輝星と根尾昂

吉田君が生まれ育った秋田県は、全国で最も速いスピードで人口の減少と高齢化が進み、すでに100万人を切った人口が2045年には60万人に縮小すると予測されている。その根本的な理由は、東京をはじめ大都市圏との情報や機会の格差が広がり、若い世代のチャンスと選択肢がますます狭くなっていることにある。

これはもちろん、秋田県に限った問題ではなく、国民の6割が暮らす非大都市圏=地方に共通する。だからこそ、大勢の人たちが金足農業に自分の境遇を重ね合わせて喝采を送ったのだと思う。情報や機会の格差が開いても、吉田君のような才能が育つ場所であることに希望を感じたのだと思う。

観る人たちの心を鷲掴みにした吉田君の本当の魅力は、どこにあったのか。僕が何より魅きつけられたのは、江川卓を彷彿とさせる速球の威力以上に、マウンドで見せる落ち着きと仲間に対する大らかさだった。

吉田輝星と根尾昂

準々決勝の対近江高校戦、1点リードされて迎えた最終回。無死1、2塁のピンチを当然のように球速のギアを上げて三振で切り抜ける。すると、攻撃に入る直前のベンチで、吉田君は、打席に備えて緊張気味な表情を浮かべる仲間の肩に腕を回して何やら楽しげに話しかけていた。土壇場でこういう振る舞いができるんだな、と感心した。その後、金足農業は無死満塁から意表を突いたツーランスクイズでサヨナラ勝ちしたわけだが、スクイズを決めたのは、そこまで9打数ノーヒット、吉田君に声をかけられていた9番打者だった。「ノーヒットやけど、ここでお前が決めるんだぞ」と励まされたという。

大本命・大阪桐蔭との決勝は、矢折れ力尽きた形になったが、大差のついた最終回のベンチで、吉田君は、仲間と一緒に嬉しそうに声を出して打球の行方を追っていた。見ている側が幸せな気分になった。大谷翔平とも重なる、こうした資質を備えた若者を大勢育てることこそ、地方が為すべき役割だと思った。

吉田輝星と根尾昂

根尾昂選手について割く紙幅が少なくなってしまったが、僕の知る限り、根尾君のような野球選手は日本に存在しなかった。これまでも勉学に秀でてプロ野球へ進んだ選手は存在したが、大阪桐蔭というトップクラスの野球高校で文武両道を貫いてきたと評価され、プロとして超一流になった選手は、聞いたことがない。

打者としては3割30本30盗塁、守備は難易度が最も高いショートでゴールデングラブ賞、その両方を達成するプレーヤーになると思う。頭脳の方は想像の域を出ないが、周囲の評判やメディアとの受け応えで垣間見る理路整然とした話ぶりには、将来は日本の野球界・スポーツ界を牽引するポジションに立つだろう、そうなってもらいたいと感じさせるところがある。

吉田輝星と根尾昂

日本で最も厳しい状況に置かれる秋田県で地元の野球仲間と共に大器に磨きをかけた吉田輝星。かたや、最高の人材と指導理論が揃った環境の下で英才教育を受けて無限の可能性を予感させる根尾昂。ポスト平成の時代に地方と大都市それぞれで目標となる理想の若者像として、これから2人が野球の枠を超えて成長していく姿を見つめていきたい。


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