貴乃花が残していったもの

1年前、横綱・日馬富士から暴行の被害を受けて大きな騒動に巻き込まれた力士の貴ノ岩が、自分の付け人に暴力を振るったことが発覚した。その報道に接して、何ともやり切れない気分になった。あれだけの事態に発展した問題の被害者が今度は加害者になるとは、一体どういうことなんだろう。

暴力に一切の言い訳は許されないという正論に頷きつつも、それだけで通り過ぎるわけにはいかないという気持ちが湧いてくる。

貴乃花が残していったもの

あれからもう1年が経ったんだなあと思う。愛弟子の暴行事件を内輪話で済ませることを拒絶し、司直の手に委ねることに固執した当時の貴乃花親方に、僕は共感する部分が多かった。その行動は、現理事長との権力闘争の側面があったにせよ、前近代的なムラ社会の因習を引き摺る相撲界に風穴を開けることになると感じていた。

しかし、貴乃花に対する共感は、相撲界はもちろん、社会全体で見ても、広がっていかなかった。行動の意味や背景を自分の言葉で伝えようとしなかったこと、理事長サイドと接点を持つ場面を頑なに拒んだことetc. その姿勢や手法に多々問題があったけれども、一番の問題は何を目指しているのかが見えるようにならなかったことにあったと思う。

そして、理事解任、理事選挙落選、無断欠勤、弟子暴行、平年寄降格、一門消滅と、自らを取り巻く状況は悪化の一途を辿り、9月に相撲協会を退職、46歳で親方を廃業した。次代のリーダーと嘱望されていた平成の大横綱は、坂道を転がり落ちるようにして相撲界から去っていった。

ところが、一年納めの九州場所で、貴乃花の弟子だった貴景勝が初優勝を果たした。その言動は親方を彷彿とさせ、貴乃花が相撲協会に一矢を報いたように映った。久しぶりの朗報もつかの間、長年連れ添った妻と離婚したことが発表された。貴乃花は、公私とも孤立無援になった。

小説のような師匠の転落の軌跡を、その発端となる暴行の被害を受けた貴ノ岩は、どんな思いで見つめていただろうか。祖国のモンゴルでは、家族に対する激しいバッシングが起きていたという。弟弟子・貴景勝の優勝は、嬉しい半面で複雑な感情を呼び起こしただろうと想像される。

結果的に、貴乃花は、育成の責任を引き受けた力士たちを相撲に集中できない状況に追い込み、その責任を道半ばで手放さざるを得なくなった。自分の筋は通したかもしれないが、リーダーとしての責任は果たせなかったことになる。

貴乃花が残していったもの

1年前のブログで、貴乃花について、「大相撲は、日本の国技であり、同時に真剣勝負のスポーツである。これが譲れない一線なのだと思います」と書いた。その認識は間違っていないと思う。

ある歴史学者が、「政治家をはじめとするリーダーの仕事は、譲ってはいけない線と譲ってもいい線を判別することだ」と話していた。その通りだと頷かされた。貴乃花は、親方を辞める際の記者会見で、「少年に相撲を教えたい」と述べていた。その言葉は、本心だと思う。


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