「この世界の片隅に」が描く、日常の大切さ

2017年は、穏やかにスタートしました。松本も、一昨日の雪を除けば、柔らかな陽射しに恵まれています。ようやく松本でも上映が始まった『この世界の片隅に』を観てきました。評判通りの映画でした。「日常」が平穏に続いていくことの大切さが、体の中に染み込んできました。

「この世界の片隅に」が描く、日常の大切さ

物語、画風、色調、音楽、全てで「日常」が魅力的に表現されていましたが、とりわけ僕が強く魅かれたのは、主人公・北條すずを演じる、のん=能年玲奈さんの声と喋り方でした。『あまちゃん』がブレークした頃、NHKの西口玄関で誰かと待ち合わせをする能年さんを偶然見かけたことがありました。どこか中性的で少し手足がだらんとした立ち姿は、天野アキそのままでした。その後、能年さんは、所属事務所をめぐる騒動が原因で芸能界から事実上姿を消していました。どのような法律上の瑕疵があったのかは詳らかでありませんが、女優としての「日常」が奪われ、自分の力ではどうしようもない「理不尽さ」を感じていたと想像できます。その天分と経験が、因習や戦争でどんなに理不尽なことが降りかかっても淡々と暮らし続ける『この世界の片隅に』のすずさんの、穏やかさと素直さと明るさと悲しみと強さに、乗り移っているように感じられました。

「酉年は、しばしば政治の大きな転換点になってきた」。

安倍総理大臣は、年頭の記者会見で、12年前の郵政解散、24年前の自民党下野、48年前の沖縄返還合意を例に上げて、こう強調しました。日本国憲法施行から70年になることを指摘して、「次なる70年を見据えながら、未来に向かって今こそ新しい国づくりを進める時です」と述べたことと考え合わせれば、今年中に憲法改正を前面に掲げて解散総選挙に打って出る意向を強く滲ませたと受け取れます。そして、何よりアメリカのトランプ次期大統領が、希望的観測に反して、選挙中の極端な言動をそのまま実行に移そうとする気配です。まさかがまさかでなくなるような世界の変化が起きるかもしれません。穏やかにスタートしたように見える日本でも、経済、安保、そして憲法と、これまでの路線を大きく転換するかどうかの選択を迫られる機会が訪れることを覚悟しておく必要があります。

「この世界の片隅に」が描く、日常の大切さ

松本市は、1月1日現在の人口が、昨年より524人減って5年連続の減少となりました。減少幅は0.2%ですが、減少した地区は中心市街地や山間部など3分の2に及んでいます。本格的な人口減少時代を目前に控え、人口の重心が南西部に移りつつあることが透けて見えます。こうした中、秋には中心市街地から程近い場所に、延床面積9万7000㎡・駐車台数2000台の都市型ショッピングモール「イオンモール松本」がオープンします。これまでの都市計画や交通政策に大きなインパクトを与えることは確実で、松本の再開発を根本から考える転機となる可能性があります。そうなれば、現体制で方向性を出すとしている「市役所新庁舎」の建設も、従来の延長線上の発想ではなく、人口動態の変化や行政サービスのIT化などを織り込んで幅広く検討していく必要があるでしょう。

政治の大きな転換も、松本の再開発も、何のために行うかと言えば、そこで暮らす人たちの「日常」が、これからも平穏に続き、次の世代に引き継いでいけるようにするためです。それを胸に刻んで、進化や革新に取り組もうと思います。


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