菅谷市長が4期目にあたって新しいスタイルで行うとした「市政懇談会」。原稿に目を落とし続けながらの挨拶が始まったときは、正直、またか、と思いました。雨にもかかわらず公民館をいっぱいにしたおよそ100人の市民も、同じように受け止めたであろうことは、まばらな拍手に表れていたように思います。
第1回に選ばれた中央地区は、松本城を取り囲む文字通りの中心市街地で、新博物館や市役所新庁舎の建設計画を抱えています。菅谷市長は、「市政運営の総括的方向性」と題し、◆「健康寿命延伸都市」の理念の下で、地方都市・松本から国を動かしてきたこと、◆長野県内では唯一、 2期連続で人口が増加していること、◆自らが掲げる「健康」とは、人間・生活・地域・環境・経済・教育文化をそれぞれ良い状態に持っていくことで、その総仕上げを目指すことを、説明しました。こういう話は何度も聞いているなあと思いながらメモを取っていると、ちょっと違う、 という表現がいくつか出てきました。「経済が大事なのはわかっているが、自分は医療者なので、 医療・介護・福祉に重点的に取り組んできた。いよいよ産業・経済の政策展開を積極的にやって いく」「次世代交通システムをしっかりやっていく。車社会から脱却していかなければならない。 これまでは総論賛成・各論反対で動いていなかったが、必ず進めていきたい」「基幹博物館・市立病院・市役所新庁舎の整備。私は今までそういう方向に手をつけなかったが、いよいよ市民の関心も高まっていくだろうから、方向づけをしなければいけない」。こうした言葉は、参加した 市民に目を向けながら幾分強い調子で語られました。菅谷市長の肉声に初めて触れたような気が します。
これなら、質疑応答では面白い話が聞けるかなと思っていたところ、司会役の坪田副市長から、「あまり各論にならない範囲で、根幹や概念に関わる話をお願いします」とやんわりと予防線が張られました。「神は細部に宿る」=細かい部分にこそ本質がある、と思いながら、菅谷市長の発言に耳を傾けようとしましたが、1問を除いて質問に答えたのは、副市長と担当部長でした。「新博物館の移転先として、旧井上の土地は検討したのか」という質問に、「松本市も大変注目している土地だが、面積が狭いため、博物館には適していなかった」と答えたのは坪田副市長。 「災害対策のためとされている内環状線の拡幅は、城下町の価値を下げるので、見直すべきではないか」という質問にも、坪田副市長が、「次世代交通と言いながら、広大な道路が必要なのか。 一方で、市内への車の流入を確保するため、道路を何とかしろ。そうした両論がある中で、苦渋の決断だった。ひょっとしたら城の価値を下げるかもしれないが、城の価値が上がったねえと言われるようにしないといけない」と答弁。司司に答弁を委ねる菅谷市長のスタイルは、市長と市民が懇談するはずの場でも基本的に変わりませんでした。
菅谷市長が自ら「今まで手をつけなかった」と述べた、新博物館や市役所新庁舎といったハード整備は、予算規模が大きい上に、どこにどのようなものを作るかをめぐって地域や団体の利害が錯綜するため、事前に合意を取り付けていたら何も進まないと、これまでは考えられてきました。しかし、いまは「政治の決定から疎外させている」と感じる国民が増え、逆に合意を取り付けなければ結果的に政策が進まない時代になっています。そして、合意を取り付けるためには、何より時間をかけて対話することが欠かせません。この日の市政懇談会は、2時間足らず。それぞれの地区では、4年に1回。できる限り対話の時間と機会を増やす必要があります。
懇談会の最後に、菅谷市長は、「『決して強引はダメだ。こちらの気持ちを説明して進めなさい』 と職員には言っている。ただ、ある時点では決めなければいけない。それがダメで非難されれば、 身を退く覚悟だ」と述べました。冒頭の挨拶と打って変わって強く響く言葉でした。市長自らが様々な手段を使って市民と対話を重ねて決定する。少なくとも地方都市の政治は、そういう方向 へ確実に向かっていくと考えます。
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