令和の時代が始まり、3週間が経ちました。改元という節目にさほどの意味はないかのように、平らかな日常が続いています。そうした中、松本市にある「旧開智学校」が、国宝に指定されることが決まりました。明治維新から間もなく全国的に大規模な学校が珍しかった時代に、費用の大半を市民の寄付で賄って建てられた、文明開化を象徴する学校建築です。松本は、江戸時代と明治時代の風情を今に伝える〈2つの国宝〉が街中に存在する、稀有な都市となります。
令和の日本が直面する最大の課題は何かと問われれば、「人口が減少すること」と答える人が大半になったように思います。人口問題に対する危機感がようやく国民全般に共有され、人口減少は自明のことになりました。ただ、日本全体で見れば、これから30年から50年、人口が減り続けることは避けられませんが、エリアに分けて見れば、すべて減少するわけではありません。その代表格が、東京です。東京圏の20〜24歳の就職世代は、昨年1年間で、転入者が転出者より7万5000人多くなっています。
全国の1700近い市区町村の人口の推移について、国立社会保障・人口問題研究所=社人研が昨年公表した推計を一目でわかるようにグラフ化した『統計メモ帳』というサイトがあります。
https://ecitizen.jp/Population/Ranking
それによりますと、2015年と2045年を比べて人口が増加する市区町村は、92に上ります。全体のおよそ5%です。このうち、人口が5万人を超える61の都市について地域を見ると、60%近くを東京圏が占めています。とりわけ東京23区は、18の区で人口が増え、中央区と港区の増加率は30%を超えています。東京一極集中は、是正されるどころか、ますます加速していく。そんな未来が映し出されています。
こうした推計結果は、直近の5年間に観察された出生・死亡・人口移動の状況が今後も継続すると仮定して弾き出された数字です。将来起こり得る社会や経済の変化、自治体の政策に起因する人口の動きなどは盛り込まれていません。日本全体で人口が減少していくことは避けられないにしても、東京一極集中を自明のもの=変えられない未来として、地方の都市は軒並み人口が減っていくという前提に立つべきではない。松本で暮らして、その思いを強くしています。
松本市の人口は、現在24万人。市独自の推計で、2045年には21万人を切り、2060年には18万人台まで落ち込むとされています。僕は、この未来は変えられると思います。みんなで変えていこう、そう訴えていきたいと思います。それは、近隣の市町村と小さなパイを奪い合うのではなく、東京をはじめ大都市圏から大勢の人たちが松本に移り住んでくる状況を作っていくということです。松本は、そのポテンシャルを持っています。
「山高く水清くして風光る」。自然と歴史が造り上げてきた景観美の秀逸さ、日本列島の中央部に位置する盆地ゆえの程良い距離感とサイズ感、旧開智学校の設立に代表される進取の気性と教育を重んじる風土。こうした環境の上に、整備が遅れた交通や観光のインフラをテコ入れし、大都会に劣らない教育機会を提供する仕組みを整えることができれば、東京に対峙する魅力的な暮らし方を提案できると考えます。
作家の橋本治さんが、かつて次のような文章を残しています。
「ミヤコとは文化の中心である。文化なるものの中にあって、支配的な中心となるべく君臨しているものが、ミヤコである。人とか県庁所在地とかは、行政区分の意図的な中心であっても、これが文化の中心であるかはわからない。ある時期、確かに日本にはいくつものミヤコがあった。例えば長野県では、県庁所在地の長野市よりも松本市のほうが強かった。長野市にあるのは善光寺と県庁だけで、近代文化の中心は明らかに松本市にあった。国につながる県庁よりも、松本市という生活文化のほうが強かったのだ」。
令和の時代に人口が増加するミヤコになる。それを非東京圏の適度な規模の都市で実現することは、地元の人たちにも全国の人たちにも、大きな希望になると思います。