豪雨と猛暑。
平成最後の夏は、日本の気候が大きく変わり、日常の生活や備えを根本から問い直す時代を迎えていることを、僕らに知らしめているように思います。相対的には災害が少なく、真夏も朝晩は過ごしやすい松本だからこそ、気候変動の影響を先取りし、水と太陽という自然の恵みを最大限に活かして持続可能な街づくりを実現していく必要がある。
そんなことを感じながら、ツイッターのタイムラインを眺めていたとき、国会記者会館を舞台にメディアの現状を問う演劇の投稿が目に留まりました。題名は、『ザ・空気 ver.2』。観に行かなくては、と思いました。
2000年の春、官房長官担当の記者として長く取材してきた小渕恵三総理大臣が、突然の病に倒れて亡くなり、森喜朗氏が後継の総理大臣に就任しました。ところが森氏は、就任早々、神道政治連盟の会合で、「日本の国はまさに天皇を中心とした神の国であるぞということを、国民の皆さんにしっかりと承知していただく」と発言。その後、釈明のための記者会見を行う前日、官邸記者クラブのコピー機に、記者の質問をどのように逸らすかなどを首相サイドに指南する文書が置き忘れられているのを、地方紙の記者が見つけて報道するという問題が明るみに出ました。
『ザ・空気 ver.2』は、この問題をモチーフに、安倍1強体制とマスメディアの関係を真正面から取り上げた風刺劇です。安田成美扮するネットメディアの女性ディレクターと、朝日・産経・NHKを模した政治記者が、政権とメディア双方の信頼を揺るがす事態にどう対処すべきか、それぞれの立場を明け透けにして言い合います。表層的な解釈やステレオタイプの人物描写に共感できない点もありましたが、政治記者としての歩みを振り返り、あのとき自分はどうすべきだったのだろうかと問い返すには、十分な内容でした。
詳細を書き記すには紙幅が足りませんが、内部で非公式に異を唱えるだけでは大勢に影響を及ぼすことができるわけもなく、いずれかの時点で異分子として主流からは遠ざけられることを感じながら、それでも従うか抗うかのギリギリの消耗戦を続けていきました。もちろん、それだけが理由ではありませんが、2年半前にNHKを辞め、今に至っています。
この演劇を観た翌朝、NHKで『政治家・野中広務の遺言』という番組が放送されました。ことし1月に亡くなった野中さんの生涯を辿る異色のドキュメンタリーでした。自らの生い立ちと向き合い、何を一番大切にしなければいけないかという軸をブレずに持ち続けた政治家だったことが改めて去来しました。そして、沖縄の基地問題やハンセン病患者の救済に熱心に取り組んだ足跡を見るにつけ、中央と地方、強者と弱者、与党と野党、旧世代と新世代を継なぐことこそが、政治の大切な役割だと信じていたに違いないと思いました。
メディアという言葉の語源は、媒介=間に入って継なぐことです。NHKの政治記者としてキャリアを積み重ね、故郷の松本に戻って政治家を志す自分がやるべき仕事は、何らかの事情でバラバラになっているものを継なぐことだと思います。今回の豪雨災害を目の当たりにし、これからの日本や地方都市に必要とされることも、時代や環境の変化に即して情報や制度や人材を継なぎ直すことなんだと思います。
「メディアを恨むな、メディアをつくれ」
池袋の劇場に響いたラストシーンのセリフは、何よりの大きな励ましです。
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