衝撃的な映像だ。大学アメリカンフットボールの名門、日本大学vs関西学院の定期戦。関学のQBがパスを投げ終えて力を抜いた数秒後に、日大の選手がQBの背後から猛烈な勢いでタックルを仕掛けている。アメリカンフットボールのルールを少しでも知っている者なら、論外のプレーであることがわかる。プレーという言葉を使うのも憚られる、選手生命を脅かす行為だ。
試合が行われたのは今月6日。ニュースの扱いが大きくなかったせいか、僕自身も、ライバル同士の試合で起きたラフプレーという程度の認識にとどまっていた。関学のQBが全治3週間のケガだったという報道も、事態を軽く見てしまう方向につながったのかもしれない。1週間が経ってニュース番組が流している映像を改めて見て、背筋が寒くなった。
司令塔であるQBをターゲットに相手ディフェンスラインの選手がハードタックルを仕掛けることは、「QBサック」と呼ばれる重要な戦術の1つだ。パスを投げたあとのタックルは、レイトヒットという反則になるが、QBがパスを投げるか投げないかのギリギリでタックルを受け、負傷退場する場面を何度も目にしたことがある。しかし、今回の行為は、全く質が違う。
映像をよく見ると、関学のQBは、ショートパスを投げたが、アンコンプリート(失敗)に終わり、しまったという感じで肩の力を抜いている。そのとき、問題の日大の選手は、5メートルほど離れた位置にいる。いくら勢いがついているとしても、QBの様子は間違いなく視界に入っている。それなのに、全くスピードを緩めることなく、無防備なQBの大腿部の裏側を目掛けて強烈なタックルを仕掛けている。大腿部骨折どころか、脊髄を損傷して半身不随にもなりかねない、危険極まりない行為だ。スポーツの範疇を超えている。
なぜこんな行為が起きたのか。きょうになって、スポーツ紙が関係者から取材した、監督が試合前のミーティングで話したとされる言葉を聞いて、驚愕した。
「最初のプレーで相手のQBに怪我をさせる。何か言われたら、監督の指示と言っていい」。
日大アメフト悪質タックルは監督の指示か「最初のプレーで相手のQBにけがをさせる」(スポーツ報知、2018年5月15日)
「相手を潰せ」「死ぬ気でやれ」。アメフトやラグビーのような体と体をぶつけ合う格闘技的な要素を備えた球技では、そうした言葉が使われることはあるだろう。だが、監督の言葉が事実だとすれば、超えてはいけない一線を超えている。本当にケガをさせろという意味で言ったのではない、と釈明するのだろうか。他のコーチや選手たちはどういうつもりで聞いていたのだろうか。
根が深い、と思う。日大アメフト部にとどまる問題ではないだろう。スポーツ界という範囲でも収まらない、いまの日本社会全体に通底する問題を含んでいるように思う。
ルールが壊れている。正確に言えば、ルールは守らなければいけないという規範が壊れつつある。今後さまざまなメディアがこの問題を大きく取り上げ、日大アメフト部の監督や選手の責任が問われることになるだろう。それは当然のことであるが、一部の狂騒に終わらせてほしくない。自立と共生、個人の尊厳、言葉の責任といった社会のルールを問い直す教訓にしたい。
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