子育て支援が政治課題となる時代

日本では、これまで「少子高齢化」と一括りに捉えられ、年金や介護の支出増という形で財政を直撃する「高齢化」に比べ、「少子化」は、保守・リベラルどちらの立場からも後回しにされてきました。ようやく、家族の幸せや地域の発展、さらに国全体の経済力にまで影響が及ぶことが広く認識され、少子化対策=子育て支援が、国レベルでも地方自治体レベルでも優先順位の高い政治課題となる時代を迎えています。

先月、政府が発表した「合計特殊出生率」=1人の女性が生涯に産む子どもの数は、1.46で、前の年より0.04ポイント上がり、1990年代半ばの水準に戻りました。ただ、現役世代の 女性の人口が急速に減っていくため、「出生率」が多少上がっても「出生数」=生まれる子供の 合計は簡単に増えない構造になっています。

出生率、2015年は1.46に上昇 21年ぶり高水準(日本経済新聞)

僕らの20代の頃に「DINKs」という言葉が流行しました。共働きで意識的に子どもを作らない夫婦のことですが、最近ほとんど耳にしなくなりました。森まさこ元少子化担当大臣が理事長を務める団体が行った調査では、80%を超える夫婦が「子どもを2人以上欲しい」と考えている一方で、70%を超える夫婦が「2人目の壁」が存在すると答えています。

その原因は「経済的な理由」を上げる人が最も多くなっていますが、子ども1人家族の60%近くが「保活がなければ、 もう1人子どもを持ちたい」と答えています。大勢の国民が希望しているのに一向に実現しない、 こうした子育てに関する実情に、政治が真正面から向き合わねばならない時代になっています。

「夫婦の出産意識調査2016」

経済的な理由を取り除くにはマクロな視点からの経済政策が不可欠ですが、「保活」=子どもを保育所に入れるための活動の負担を軽くするのは、地方自治体のミクロな視点がカギを握ります。

しかも、地価が高くて保育所の確保がままならない大都市圏より、地方都市にアドバンテージがあります。

年間いつでも入園の申請ができるようにならないか、再就職の活動期間に入園できるようにならないか、兄弟姉妹が同じ園に通えるように幼保一体型をもっと増やせないか、など、「保活」を軽減するための要望は数多くあります。

こうした要望に機敏に対応した地方都市が、 若い世代を呼び寄せることができる時代です。

ICTの大胆な活用で子育て世帯と保育所のネットワークを強化するなどして臨機応変に対応できる体制が、行政に求められます。 さらに、妊娠から出産・育児までを切れ目なくワンストップで支援する、フィンランドの「ネウボラ」という施設をモデルとした拠点が、およそ140の市区町村で設置されています。

私が住む松本市でも、今年度予算案に職員1人の人件費などで300万円程度が計上されました。全国の自治体は、先進的な事例をどん欲に取り込んで、子育て支援のトップランナーを競っています。

トヨタ 在宅勤務大幅拡充 子育て支援や介護離職防止

子育て支援には、企業の働き方を家庭との両立に配慮した形に変えていくことも欠かせません。

日本を代表するトヨタ自動車が、子育てを支援することなどを目的に、週に2時間出社すれば自宅で仕事できる「在宅勤務制度」を1万数千人の総合職を対象に導入することになる、と報道されています。子育て支援は、トヨタにとっても人材確保の面から率先して取り組む課題となっていて、他の企業にも影響を及ぼすことが予想されます。

子育て支援が政治課題となる時代

焦点:骨太方針、子育て支援など財源盛り込めず

こうした中で迎える参議院選挙では、消費税率の10%引き上げが再延期されたため、引き上げが前提とされていた、保育の受け皿の確保や保育士の給与の改善などがどこまで実現するのか、不透明になりました。代わりの財源について、与党は、経済成長による税収の増加分を充てる、 野党は、赤字国債を発行して対応する、としていますが、いずれも急場をしのぐための方策です。

残念ながら、子育て支援が政治課題となったにもかかわらず、子育て支援を重視する若い世代が投票所に足を運びにくい状況となっています。


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