石破茂の反骨と公正

お盆休みとは言え、1か月後に控える自民党総裁選挙のニュースがほとんど報道されていません。目にしたとしても、スタートする前にゲームオーバーといった記事ばかりで、どのマスメディアも選挙の醍醐味を伝えるには程遠い状況と見ているようです。

しかし、本当にそうなのでしょうか。松本でいわゆる保守層の人たちと話していて、安倍3選に危惧の念を持っている人は少なくありません。「政治は一寸先は闇」と教えられてきた者として、納得しかねるところがあります。

石破茂の反骨と公正

石破茂氏は、僕がNHKの政治記者として旧経世会=小渕派の担当を務めていたときに、政治改革をめぐって離党した自民党に復党しました。田中角栄元首相の知己で政界入りし、小渕派との繋がりが深かったにもかからわず、後ろ足で砂をかけて出ていった奴がどのツラ下げて帰ってきたんだ、と冷ややかに見られていました。その後、農業や防衛の政策通として頭角を現し、中堅の人材が枯渇していた小渕派入りが囁かれるようになってからも、頭の下げ方が足りないといった日本的な理由で外様扱いが続きました。慶應出身らしからぬ垢抜けない風貌と合わせて、不器用な人だなあと感じたことを憶い出します。

鳥取県知事を務めた父親を持つ石破氏は、いわゆる2世議員に色分けされますが、中学校までは鳥取で育ちました。地方創生へのこだわりは決して付け焼刃ではなく、安倍総理大臣や岸田政調会長ら東京生まれ東京育ちの世襲政治家とは違うんだという自負を感じるのは、少年時代の生い立ちが影響しているのかもしれません。その点は、一時は行動を共にした小沢一郎氏と共通しています。

立候補を表明した記者会見で「世代間において、地域間において、格差が固定しつつある。格差を是正していかねばなりません」と述べたことに表れているように、地方の目線から日本を再設計しようという姿勢は、選挙戦略を超えて石破氏のDNAから来るものと考えていいと思います。

石破茂の反骨と公正

かつて自民党参議院のドンと呼ばれた青木幹雄氏が、いまも隠然たる影響力を持つとされる参議院竹下派に石破支持を働きかけ、自民党の大勢が安倍3選に雪崩を打つ状況に一石を投じました。青木氏が小渕内閣の官房長官を務めていたときに担当記者だった僕の目には、少し意外な行動に映りました。

2人の地元である島根と鳥取が合区となった先の参議院選挙で長男・一彦氏に一本化したことの恩義を返すという意味合いもあるでしょう。来年以降の政局に布石を打つためだという見方も全く的外れとは思いません。しかし、僕の知る限り青木氏の本質は、負け戦はしないリアリストです。旧経世会を二分してまでも小泉首相の再選を支持した局面は、その最たるものでした。ライバルとして凌ぎを削った野中広務氏が逝去し、自らも齢を重ねた平成最後の夏に、何か心境の変化があったのか。それとも、情勢を一変させる可能性を持っている小泉進次郎氏が石破支持に動く心証を掴んでいるのでしょうか。

石破茂の反骨と公正

「正直、公正、石破茂」。最初に記者会見のボードに書かれた言葉を見たときは、これで戦えるのかと首を捻りました。今のところ総裁選は、全く盛り上がりを欠いています。それでも、結論を出すのはまだ早いのではないかと感じています。それは、石破氏の反骨と公正は、付け焼き刃でないと思うからです。そして、今回の総裁選の真のテーマは、「地方」ではないかと思っているからです。希望的観測かもしれませんが、選挙が本来持っている可能性に期待をつないでいます。


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